2023/04/27

長期症例から見る知覚過敏患者さんへの対応

皆さんこんにちは!口腔健康チーム所属のHです。

現在の部署で産業歯科健診や集団保健指導を行いながら、千里歯科診療所で臨床業務を続けて35年になります。


日々の臨床において、患者さんから「冷たい飲み物を飲んだときや息を吸うと歯が痛い」「ハブラシがあたるとピリッとする」等、「歯がしみる」知覚過敏の症状を訴えられることは多いかと思います。

しみる痛みは食べるときに美味しく食べられず、眉間にしわが寄ってしまうほど辛い場合もあります。

そもそも「知覚過敏」とは、どういうメカニズムでおこるのでしょうか?

専門家である私たち歯科衛生士が正しい知識を持ち理解していないと、患者さんにきちんと説明できません。 

  

象牙質知覚過敏症の疫学的な有病率としては、約3人に1人という報告があります。(参考:L. Favaro Zeola et al, J.Dent, 81:1–6, 2019)

象牙質知覚過敏症増加の社会的背景としては、「歯の寿命の延伸により、歯肉退縮による根面露出、咬耗・摩耗による象牙質露出が増加」「酸性飲食物の頻回摂取による酸蝕症やストレス、咬合など、ライフスタイルの変化による影響」「審美面での需要の高まりによるホワイトニング治療の増加」が想定されます。

象牙質知覚過敏症のメカニズムとしては、歯周病等により歯肉が退縮すると、根面象牙質が露出します。象牙質には2~3μm象牙細管が開口しており、そこに冷たい飲み物や、ハブラシによるブラッシングなどの外部刺激が加わると、象牙細管を通じて神経に刺激が届き、痛みを発現します。 

  

知覚過敏が発症すると、痛みによるQOL低下だけではなく、口腔のセルフケアが疎かになり、根面露出による根面う蝕、歯周病の悪化などの歯科疾患を引き起こし、歯の喪失に繋がる可能性もあります。

これらの事を理解した上で、具体的にどのように保健指導を行えばいいでしょうか?

知覚過敏用の歯磨剤の使用をお勧めする以外に私たち歯科衛生士にできることは?

改めて問われると自信を持って指導できているか疑問ですよね。 

そこで今回は、象牙質知覚過敏症と歯周病の口腔管理を20年間継続し、取り組んだ症例の一例をご紹介させていただきます。


遡る事20年前


チェアーに座るなり、患者さんから「しみる箇所は触ってほしくない!」と言われ、部位の特定に苦労しました。

触るとしみるので、歯周組織検査時しみる箇所はかなり注意して、プローブが直接歯に触れないよう配慮しました。

主訴である知覚過敏部位の症状の緩和のために知覚過敏処置で歯に触れても問題ない程度に痛みを軽減させました。が、インスツルメントが歯牙の先端に触れると過敏になるようで、知覚過敏部位関係なく器具が歯に直接当たらないよう毎回、今も継続して注意しております。

セルフケアとしてのブラッシングは、みがきすぎる傾向があるため、やわらかめでコンパクトタイプのハブラシを処方しました。

また、歯間清掃具としては、歯間ブラシはワイヤーが当たるとしみるため、フロスとタフトブラシを使用してもらっています。

来院時には、口腔内全体と知覚過敏症状が悪化していないか確認し、中性のフッ素塗布を行い、セルフケアでは、知覚過敏用歯磨剤またはフッ化物洗口液を症状の程度によって使い分けていただいています。

ピンポイントでしみる症状があるときは、知覚過敏用歯磨剤を塗りつけるようにやさしくケアしてもらっています。 

症状がひどい場合は来院時に知覚過敏処置をあわせておこないます。

吸引する際には、しみる歯の近くにバキュームはもっていかず、できるだけ臼後三角へ固定し、喉元の吸引を主に行うように注意しております。

また、超音波を使用する際は、しみる箇所には当てられないため、手用スケーラーを用いて注意して除去します。

ブラキシズムがあることから、歯周基本治療終了時より、スプリントも作成し使用を継続していただいております。

プラークスコアは良好で、炎症が強いタイプの方ではないため「いかに歯をみがきすぎないようにするか?」に焦点をあてた指導を行いました。家庭での知覚過敏症状への対応法を確認し、抜歯や抜髄することなく現在も良い状態が保てております。

  

この方の場合、やわらかめのハブラシに変更していただきましたが「やわらかいハブラシだとみがいた気がしない」「きれいに取れない気がする」という方もおられます。

そこで、硬いハブラシでごしごしみがくことの弊害についても説明しました。

「硬めでゴシゴシみがくことがいいと思い頑張っていたが、間違いに気づくことができた」と喜んでおられました。

初診時には恐怖と不安と不信感が強くありましたが、現在ではチェアーに誘導するまでの間にも笑顔でお話しくださるようになり、安心して通院いただいております。

「みがかないと歯周病になる」という思い込みからも

長時間硬めのハブラシでごしごしみがいていたことが、知覚過敏に繋がり歯を触られることの恐怖に繋がっていたようです。

現在では症状にあったハブラシを使用され、知覚過敏症状も安定しております。 

  

知覚過敏患者への対応として

*知覚過敏症状により、間違ったブラッシングをしている患者さんには、お口に適したツール・歯磨剤を処方し、正しいブラッシングを継続してもらえる工夫を行う必要があると考えます。

*セルフケアで行うべきこと、プロフェッショナルケアで行うべきことを歯科衛生士としてしっかり把握し、説明することで患者さんの行動変容に繋がったのではないかと思います。


皆さんの明日からの知覚過敏症状の方への指導や対応の参考になれば幸いです。

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