皆さんこんにちは!営業部歯科衛生士のIです。
そもそも、口腔粘膜炎はなぜがん治療により発症するのでしょうか?原因からおさらいしていきましょう。
薬物療法も頭頸部放射線療法のいずれも、がん細胞を殺す一方で周囲の正常細胞にもダメージを与えて
しまいます。細胞分裂が活発な口腔粘膜はその影響を受けやすく、粘膜基底細胞のアポトーシス
(あらかじめプログラムされた細胞死)によって口腔粘膜炎が出現します。
発症率は、化学療法で40-70%1) 頭頸部放射線療法でほぼ100%2)と言われています。
造血器がんでの大量化学療法や頭頸部がんへの化学放射線療法では、より発症頻度が高く症状も重篤化します。
特に放射線性口腔粘膜炎は、照射開始から20Gy (グレイ:放射線量の単位)前後で発症し、照射量が増えるに
つれ増悪します。照射野に一致して症状が現れるため、照射部位と照射量はケアするうえであらかじめ確認
しておくことが重要ですね。
口腔粘膜炎の発症時期を見ていきましょう。
▼薬物療法単独の場合
抗がん剤投与後、粘膜が再生し3-4週間以内にほぼおさまります。
しかし、投与サイクルごとに発症するため都度注意を要します。
▼化学放射線療法の場合
一方、放射線治療は毎日少しずつの量を一定期間照射し続けるため、2-3か月口腔粘膜炎が持続し、治療終了から約4週で粘膜が再生します。
ただし、放射線療法による口腔乾燥や味覚異常の症状は治療終了後も長期間続く場合があるため、継続的にサポートする必要があります。
さて、ケア方法の説明に移る前に、発症部位を把握しておきましょう。3)
薬物療法に伴う口腔粘膜炎は、イラストの様に可動粘膜に発症し、角化粘膜(舌背・歯肉・硬口蓋など)には
発症しません。
放射線療法による発症部位も、可動粘膜の方が症状が強く現れますが粘膜構造に関係なく照射野に一致して
発現します。また、金属製のクラウンがある場合は、散乱線により金属周囲で照射量が増強し口腔粘膜炎が
強く出ることがあります。
セルフケア時に発症部位を注意して観察するよう、患者さんへお伝えください。
最後は、セルフケアの指導ポイントについてです。
がん治療中の口腔ケアは患者さん自身のセルフケアが主体となります。繰り返しの治療により口腔トラブルも
繰り返されるため、症状の悪化によって治療に影響をきたさないよう、適切なセルフケアを早期から習慣化することが重要です!
ケアの基本は下記3点です。
❶口腔内清潔保持
❷口腔内保湿
❸疼痛コントロール
Point❶ 口腔内清潔保持
・ヘッドが薄くコンパクトで軟毛のハブラシを選択
・悪心や開口障害がある場合は、シングルタフトブラシがおすすめ
・歯磨剤や洗口液は低刺激性のものを使用
・疼痛が強いときは水や生理食塩水、低刺激な洗口液で30秒間ゆっくりとブクブクうがい
Point❷ 口腔内保湿
・口腔粘膜炎の発症前から継続して実施
・継続して保湿を行うことで、口腔粘膜炎の症状も軽減する
・処方される含嗽剤や生理食塩水、市販の保湿剤など、自身に合うものを選択
・できれば1日8回(約2時間おき)行う
Point❸ 疼痛コントロール
・痛みが出たときは、あらかじめ処方された薬剤を服用
・痛みを我慢せず、部位(どこが)・性質(どんなふうに)・状況(いつ)の3つを担当医や歯科医へ伝えてもらう
★詳細はこちらのp.8をチェックしてみてください
がん治療には今回お話しした口腔粘膜炎以外の副作用が多数ありますが、普段のお口のケアを適切に行うことで、口腔粘膜炎は軽減させることができます。
患者さんのQOLを可能な限り低下させないよう、皆さんからの情報提供とセルフケアの指導に今回のコラムが
お役立ていただけると幸いです!
1)Lalla RV.et al. Management of oral mucositis in patients who have cancer. Dent Clin North Am.2008,52,61-77.
2)がん情報サービス 全国共通がん医科歯科連携講習会テキスト(第二版) 頭頸部放射線療法、化学放射線療法の患者への口腔健康管理 p.96
https://ganjoho.jp/public/qa_links/book/medical/pdf/training_course_text2_04.pdf
3)大田洋二郎.がん治療による口腔粘膜炎・口のトラブルに備える 静岡県立静岡がんセンター発行パンフレット