早産や胎児発育不全の原因のひとつとして挙げられるのが、子宮内の羊水・羊膜への細菌感染です。これまでは尿路感染症や細菌性膣炎などに着目されていましたが、それらが認められない妊婦においても一定の割合で子宮内部に細菌感染があることが明らかになっています。近年では、歯周病菌による慢性炎症が早産・低体重児出産に影響することも報告されています。妊娠中は女性ホルモンの影響で歯肉炎を患いやすく、これを放置すると歯肉炎がさらに進行します。中等度以上の歯周病を患うと早産や低体重児出産のリスクが7倍以上高まる、という報告もあり注意が必要です。
早産に至るメカニズムの1つとして考えられるのは、歯周病菌による慢性炎症により母体で炎症性物質のプロスタグランジンE2が産生されること。プロスタグランジンE2は子宮収縮を促して出産を手助けする物質でもあるので、これが母体で過剰に産生されることは早産や胎児の発育異常のリスクにつながる可能性があります。
また、歯周病菌が妊婦の羊水から検出されたという報告もあるように、歯周病菌が血液中に直接侵入する菌血症も一因とされています。炎症した歯肉の部位が微小潰瘍となることで、細菌が体内に侵入する入口となって口腔内から臓器に達し、二次感染が引き起こされると考えられています。
妊娠中に中等度以上の歯周病を患うと、胎児の出生異常や発育異常に影響を及ぼす可能性がある今、歯周病はもはや口腔内だけの疾患ではなく、胎児の将来にも関係する疾患。母子の健康を維持するためにも、妊娠前からの日常的なプラークコントロールに加えて、歯科検診でのPMTC(※)、必要に応じて歯周病の早期治療などの口腔内ケアを行い、口腔内の健康も維持することが大切だと言えます。
※:プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニングの略称で、歯科医師・歯科衛生士などの専門家による歯のクリーニングのこと。
※参考文献 公益財団法人 パブリックヘルスリサーチセンター発行:ストレス科学研究/片桐さやか
2017年 32巻 91-92頁【「歯周病原細菌による胎児発達障害と耐糖能異常への影響」】