健康保険組合のレセプト情報と定期健康診断情報のデータベースから、働く人々(※1)の口腔(※2)と医科医療費との関係が明らかになりました。
歯数と咬合状態は年齢とともに低下
歯数は年齢が上がるほど減少し、20~39歳では女性のほうがやや少なく、40~60代では男性のほうがやや少なくなり、男女ともに60歳で平均25本以下に。咬合支持分類も同様で、年齢が上がるにつれてA分類からB分類、C分類へと変化し、20~39歳ではほとんどがA分類でしたが、60~74歳では6割程度にまで低下しています。
歯数が多いほど医科医療費が低い
多くの年代で、歯数が多いほど医科医療費が有意に低いことがわかりました。特に注目したいのが、「28歯」と「24~27歯」の医科医療費の差です。どの年代も、歯数が1~4本減っただけで医科医療費が有意に増加していることがわかります。
8020運動の考えに基づき、高齢者を対象に20歯以上と19歯以下を比較した研究はこれまでにありましたが、それより若い世代を対象に20歯以上をさらに3群に分類して比較しても医科医療費に有意差があることが明確になりました。
<歯の本数と医科医療費の関係>
咬合状態がよいほど医科医療費が低い
50歳未満では一部逆転する結果もあったものの、男女ともに全体では咬合支持分類が良好であるほど、つまりA分類からB分類、C分類になるにつれ、医科医療費が有意に高くなりました。また、A分類の人の中でも、A3からA2、A1になるにつれ、つまり臼歯部の咬合を適切に保っている人ほど医科医療費が低くなる傾向もみられました。
<歯の噛みあわせ(咬合)と医科医療費の関係>
歯数が同程度なら咬合状態がよいほど医科医療費が低い
女性で19歯以下の場合を除くと、歯数が同程度の場合、咬合支持分類が良好な人ほど(A分類のほうがB分類以下よりも)医科医療費が有意に低いという結果がみられました。
<歯の本数・咬合と医科医療費の関係>
口腔の健康維持が将来の慢性疾患の減少につながる
今回の調査から、男女ともに20~74歳において、歯数が多いほど、あるいは咬合状態が良好なほど、医科医療費が有意に低い傾向がわかりました。特に、20歯以上や咬合支持域が揃っているA分類の中でも差が認められたことや、歯数が同程度の場合は咬合状態がよいほど医科医療費が低いという結果が比較的若い世代から認められたのが、注目したい点です。
つまり、う蝕や歯周病を若いうちから予防し、口腔の健康を維持することが、全身の健康にもつながり、生活習慣病などに代表される慢性疾患の減少につながると考えられます。
また、歯数の維持はもちろん大切ですが、咬合状態を良好に保つという視点では、特に臼歯部の咬合が重要であることも留意したいポイントといえます。高齢者では臼歯部の咬合が栄養摂取などに影響を与えたり、嚥下機能低下に関連したりするといった報告もあるからです。今回の調査結果では、40歳頃から歯を失い始めていることがわかるため、早い段階からセルフケアの必要性を伝える取り組みが大切だといえます。
※1 複数の健康保険組合の定期健康診断受診者約70万人のうち、2015年度に歯科医院の受診歴があり、歯の本数とその部位が確認でき、医科を受診した20歳から74歳までの男女247,019人。男女とも40代が多く、20代~40代は女性が多く、50代~74歳は男性が多い。
※2 歯数と咬合支持分類を指す。具体的には、歯式情報で上下顎両側第三大臼歯を除く28歯についての現在歯数と、歯式情報よりアイヒナー分類を用いて判別した咬合支持分類。