がんの治療中は化学療法や放射線療法の副作用により、口腔粘膜炎や口腔乾燥、味覚異常、歯肉出血、歯性感染症等の口腔トラブルが出現することがあります。
特に、頭頸部がんの化学放射線療法や大量化学療法を行う造血幹細胞移植などではこのような口腔トラブルが起こりやすく、患者さんのQOLを下げる大きな要因となります。
口腔粘膜炎や口腔乾燥が生じたお口の中はデリケートな状態にあり、痛みによって経口摂取が難しくなったり、歯磨きをしたりすることに負担を感じてしまうことがあります。
経口摂取が困難になると、全身状態が悪化し、がん治療を中止しなくてはならないという事態を招くことにも繋がります。歯磨きができない状態になってしまうと、口腔内の細菌が増加し、炎症部位から全身への感染リスクを高め、これもがん治療そのものに影響を及ぼす可能性があります。そのため、がん治療の前、治療中、治療後にかけて口腔内の清潔と保湿を保ち、口腔トラブルの症状を緩和することが、がん治療を支える支持療法として広まっています。
また、がん患者さんに限らず全身麻酔手術を受ける場合では、気管挿管に伴って口腔内細菌が気管から肺に入り、術後肺炎を発症するリスクがあるため、近年、術前の口腔ケアが着目されています。
術前から丁寧に口腔ケアやプラークコントロールを行うことで口腔内の細菌の量や質が改善され、術後肺炎の発症予防や合併症の軽減に寄与します。
特にむし歯・歯周病・義歯不適合がある方、1年以上歯科医院を受診していない患者さんには、治療の前に歯科医院でセルフケアの指導とプロフェッショナルケアを受けることをお勧めしてください。
頭頸部がんの切除再建手術を受ける患者さんに対して、手術前後に歯石除去、歯周病治療、創部洗浄、ブラッシング、うがいなどの口腔ケアを計画的に行うことで、術後合併症の発症率が64%から16%に低下しました(図1)。
<方法>
1人の整形外科医による2週間の頭頸部がん再建手術例を比較
〇 A病院:1998年4月~2002年2月に35人に対して口腔ケア介入なし
〇 B病院:2002年9月~2003年12月に56人に対して口腔ケア介入あり
<結果>
S病院はA病院と比べ術後合併症率が有意に低く、経口摂取開始日も有意に短縮された
(S病院9日 v.s. A病院16日、 p<0.0001)。
歯科・顎・口腔外科、消化器外科、心臓外科の手術症例等に対し、歯科医師により診査・計画され、歯科医師、歯科衛生士により実施された専門的な口腔管理を受けた患者さんにおいて、いずれの診療科においても在院日数の削減効果が統計学的有意に認められています(図2)。
<対象>
▪ 歯科・顎・口腔外科、消化器外科、心臓血管外科の手術症例
▪ 歯科・顎・口腔外科の放射線治療症例
「非管理群」 : 従来の主に看護師により行われてきた口内正式などの一般的な口腔内ケアを受けた群
「管理群」 : 歯科医師により診査・計画され、歯科医師・歯科衛生士により実施された専門的な口腔管理を受けた群
(図2) 口腔機能の管理による在院日数に対する削減効果
<結果>
〇 いずれの診療科においても在院日数の削減効果が統計学的に有意に認められ、
その効果はほぼ10%以上あることが明らかになった。
〇 口腔に近い領域だけでなく、侵襲が大きな治療の際に口腔機能の管理が重要であると考えられる。全身的負担の大きな治療に際して、口腔内細菌叢が崩れるのを防いでいるものと推測できる。
患者さんの口腔状態、自立の程度に合わせて行います。
歯科医師、歯科衛生士から個々の患者さんに応じた指導を行ってください。
頭頸部の放射線治療後は、晩期に有害事象(放射線性う蝕や放射線性顎骨壊死など)が発生する場合もあります。主治医や患者さんに携わる多職種の医療スタッフから定期的な歯科受診を勧めると、患者さんも自分のお口に対する関心が高まるでしょう。
【出典】
口腔ケアについて動画でわかりやすく解説しております。
監修 静岡がんセンター 歯科口腔外科
百合草健圭志先生
安藤千賀子先生
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